『モダンタイムス』

モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

伊坂最新作。あまりにも読みたい本がなくなったので「厚けりゃ次読みたい本が出てくるまで時間稼ぎになるかいな」なんて思って買ったら、予想外の面白さに光速で読んでしまいそんした気分に。花沢の絵が載っているVer.は1000円も高いので、勿論安いほうを買うでしょ。
そもそもですが、設定が「近未来×超能力×ミステリ×権力×暴力」というなんとも僕の好きな設定を全部採用しているような内容で、しかも凄いのが超能力(異次元)にありながらもミステリ(現実)の物語であるという(スタジオヴォイスかなんかに書いてあったけど、本当にそうだね!)。こんな矛盾を抱えながらそれでもちゃんと興味を持続させてくれる・・ものすごい平易な文章ですが、読みやすいのです。
題名にも示唆されていますが、言ってしまえば「構造主義」の話ですね。伊坂は「システム」のなかで「そういうことになっている」と書いてありますが、それは「構造主義について考えることはまた構造主義の中で考えていて、それもまた構造主義の中で考えていて・・・(永遠に続く)」というのとかなりはっきりと似ています。例の監視塔話も途中ででてくるので「やはりか」と思いましたが、詳しくは分からないのでこれ以上書くのはやめます。
あと、これは持論なんですが、本当に才能のある人は「登場人物の名前をテキトーにする理論」っていうのがあって、例えば森田まさのりとか鳥山明とかが代表なんでしょうけど、この物語もイサカコウタロウやらオオイシクラノスケやらゴタンダナサオミやら・・脚本とかストーリーに絶対の自信があると、名前なぞはどうでも良くなるのでしょうか?あとがきで「考えるのが億劫になってテキトーにつけた」とあります。
この物語にカタルシスみたいなものはほとんどありません。追い求める事実はシステムであってと同時にシステムでしかないからです。そしてシステムは膨大に包括的で脱却することはほとんど不可能・・・それでもあえて干渉せず生きる。欺瞞に覆われた社会でも、その欺瞞を抱えて生きるしかない。絶望的な結末は諦念と冷笑によって〆られます、残念ながら。
ところでこの人の小説に出てくる人物はみな何かに長けた人たちばかりです。外見も内面ももう駄目で駄目で仕様がないみたいな人物は一人として登場しない。ノワールばっかり読んでいると駄目人間ばかりに目が行くので、たまにはこういうリア充小説でも読んでデドックスせねばと思ったしだいです。